数十億年

こんなに淋しい夜があるということを、彼女は信じられない。
毎日毎日やってくる夜の、振り返られることもなくベッドの向こうに消えていく夜の、
そんな夜に、そんなに淋しい姿があってはならない、と彼女は思っていた。

金木犀の香りがしていた。空気があまく、熱くも冷たくもなく、彼女はなんとなく気持ちがふさいでいて、熱でもあるんじゃないかなと思って、部屋のベランダを開けた。
そこに、その淋しい夜があった。
夜は彼女に「淋しい」と一言も言わなかったが、その黒さや、深さや、温度や湿度や星々から彼女は夜の寂しさを深く理解してしまった。
そうして突然ぽろぽろ涙を流してしまったから、これはもしかして彼女の方が切なかった、寂しかったのかもしれない。
この真っ黒な空間に、白くてきれいな花でも撒いてやったら、少しは元気出るのかな、彼女はそう思った。
この星でついさっき、知らない誰かが死んだのかもしれない。だからこんなに淋しいのかもしれない。そうも思った。
彼女は恋をしていた。それも関係あったのかもしれない。

とにかく夜は、ただその淋しさを晒して世界を覆っていた。
彼女はしばらく涙を流して、淋しい気持ちで、そのまま眠りについた。明日のことなど考えないで。ベッドに潜ってもしばらく、彼女は涙が止まらなかった。それくらい淋しい夜だった。